スマート林業は、事業体にどんなメリットをもたらすのか。これからスマート化に取り組む事業体は、どのような心構えを持つべきなのか。スマート林業の先頭を走り続けてきた北信州森林組合の業務課長、堀澤正彦さんのインタビュー後編をお届け。
目先の利益に惑わされたらスマート化は進まない
森林資源情報の把握と並行して、生産管理のスマート化も進めてきた。特に活用しているのが
「素材検収システム」だ。素材検収システムによって、検収にかかる時間は
1/5以下に。
「平成25年度から利用を続けています。当時はタップ入力しかできませんでしたが、野帳からPCへとデータを打ち込み直す手間がなくなるだけで大助かりでした。最近ではAI画像認識機能も搭載されて、さらに便利に。すでに検収は現場の作業員に任せています」。
検収を実施するのはフォワーダへの積込時。あとは一日の仕事を終えた作業員が通信圏内に戻ってきた時点で、検収データがクラウドサーバーへと自動でアップされる仕組みだ。さらにこのデータは、農林水産業みらい基金の助成を受けて独自に開発した「木材情報共有システム」を経由し、北信木材センター(県森連)と共有される。
「ここから先はまだ人力なのですが、共有した木材情報をもとに、センターの担当者が、各製材所へとマッチングをかけてくれます。マッチングが済んだら、私たちは指定された製材所へと材を運び込みます。つまり、センターを経由するのはデータだけ。この直送体制を確立し、
はい積み手数料等を削減したことで、
素材の立方メートルあたりの収益性が700円程向上しました」。
堀澤さんは「需給マッチングの仕組みはまだまだ未完成」と言うものの、これは
立派な木材サプライチェーンだ。今後は、この枠組みのなかに地域の他の事業体にも参加してもらい、スケールメリットによるサプライチェーン全体の競争力向上を狙っていくという。
コスト削減のためではなく見える化の推進のために
このように積極的に林業のスマート化を進める同組合だが、これらの取り組みによってトータルではどれくらいのコストを削減できたのだろうか。そう尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「正直なところ、
目に見えてコストが減ったということはありません。確かにさまざまな作業が効率化しましたが、その反面、航空機によるレーザー測量をはじめ、スマート化にはそれなりの導入コストがつきものですからね。スマート化を進めてきたのは、コスト削減のためというよりも、
森林資源情報や生産情報といったさまざまな情報を見える化するためです」。
それではなぜコストをかけてまで情報の見える化に取り組んできたのだろう。重ねて尋ねた。
「
川中・川下と連携していくためです。これまで川中・川下との間に分断が起きていたのは、川上側が情報を提供できなかったからではないでしょうか。どこにどのくらいの森林資源があり、それがいつ搬出されるのか。私たちがそれを明確に示せれば、川中・川下も
安心して需給計画を組むことができるはずです。さらに私たちに安定的な生産能力があることを証明できれば、
川中・川下は設備投資もしやすくなるはずです。これは運送会社など、物流サイドにとっても同じことでしょう。そうやって需要が高まれば、私たちも生産性向上のための投資ができます」。
サプライチェーンの各工程が情報を共有し、計画的に投資を進めることで、
サプライチェーン全体の生産性が向上していく。そうなればまさに理想的だろう。
「スマート化は、短期間で目に見える成果をもたらすことはないでしょう。しかし、
林業という産業が成長を続けるには、スマート化が必要不可欠です。これからスマート化に取り組もうという方にも、ぜひ意識してほしいことですね。そうすれば、目先の利益に惑わされることなく、
自分たちに本当に必要なものが見えてくるはずです」。
アジア航測株式会社
航空レーザ計測による森林資源解析データを活用した森林資源管理
文:福地敦
FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より加筆・修正